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サイト「Nanayo-Duki」と連動した紀和沙のブログ。日記・サイト更新情報・創作お役立ち本レビューなど。イラスト・小説などの作品はサイトにあります。詳しくは、右中段のリンクから!
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本を読んでいると、熊野関係の記述に当たることがあります。そのつど、ツイッターなんかでつぶやいてますが、今日は「西行物語絵巻」について、少し書いてみようと思います。

『日本絵巻大成26 西行物語絵巻』(小松茂美編、中央公論社、昭和54年)に収録された絵巻には、西行が熊野を訪れるシーンがあります。
渡辺家蔵本「西行物語絵巻」(俵屋宗達画、1630年以降成立か)のキャプションには、問題ありかと思います。


(p.85 上段)
右手、八上王子の小高い丘から、西行は来し方を展望している。山野の桜が遠く近くに霞んでいる。かなたの山路には、熊野詣で帰りの旅人が下山してくる。行路を人々が埋め尽くした“蟻の熊野詣で”のたとえと異なり、いまは西行のほかに訪れる人とてない。



西行くらいの時代から、上皇らの熊野御幸が盛んになり、そして民衆の熊野詣でにつながるわけです。なので、
「まだ熊野詣でが盛んでなかったから、人がいない」
と解釈すれば適切なキャプションかと思います。
ただし、
「前は盛んだったが、西行現在では廃れ、訪れる人もいない」
と解釈してしまうとちょっと困った感じになりますね。あと、

>熊野詣で帰りの旅人が下山してくる

と書いてあるのに、

>いまは西行のほかに訪れる人とてない


って書いてあるのは意味がないっすよね。

それから大問題なのは、この続きにあるキャプションです。


(p.85 下段)
珍しく3紙を継いだ、大画面。奥深い那智山のたたずまいを、みごとに描く。まず、上段の画面から、滝入堂が描かれている。修験者や先達が語る那智山の由来に、西行は一心に耳を傾ける。崖の下は熊野川。



そもそも、那智の滝が注ぐのは那智川で、熊野川ではないそうです。(てつ@み熊野ねっとさん、情報ありがとうございます!)
でも、もしかしたら詞書きに「熊野川」云々の記述があるのかと思って、見てみました。


那智にまいりて滝入堂し侍りしるに、
「一、二の滝おはします。それへまいり侍る」
と申す常住の僧の侍りけるに、具してまいりけり。「花や咲ぬらん」とたつねまほしかりしおりふしにて、たよりある心ちしてわけいるに、二の滝のもとにまいりて
「如意輪のたきとなむ、これを申す」
といひけり。まことにすこく、うちかたふきたるやうになかれたる。いよ(いよ)たうとくおほえて、涙のとゝまらす。そのまへに、花山院の御庵室のあと侍ける。まへにとしへたるさくらの木の侍けるを見て、『すみかとすれは』とよませ給けんことのおもひいでられて、

このもとにすみける跡をみつるかな 那智の高嶺の花をたつねて

かゝる桜の年経りたる枝のひとふさ咲きたるに

わきてみん老木は花もあはれなり いま幾度か春に逢ふべき



※『日本絵巻大成26 西行物語絵巻』の翻刻を参考に、適宜改行・句読点等を加えています。

無い…!
一言も熊野川云々の詞がありません。
さらに言うと、詞には

>「一、二の滝おはします。それへまいり侍る」と申す常住の僧の侍りける

としか書かれていないので、

>修験者や先達が語る那智山の由来に、西行は一心に耳を傾ける。

というキャプションも、編者が勝手につけた解釈であるといわざるを得ません。だって本文で、先達らが那智の滝の由来を語ったって記述ないですもん。想像力豊か、と言えばポジティブですが、余計な一言を添えて絵巻の本質を曇らせているともいえます。

絵巻の解釈には、このように解釈した者の想像力によっている部分が少なからずあります。想像力とはすなわち、知識・経験・感覚に支えられた、限界のあるものです。
だからどこかで、「その解釈って合ってるの?」っていう問いかけはしていかないといけないと思います。

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