サイト「Nanayo-Duki」と連動した紀和沙のブログ。日記・サイト更新情報・創作お役立ち本レビューなど。イラスト・小説などの作品はサイトにあります。詳しくは、右中段のリンクから!
昔はよく、「まんがで読む百人一首」みたいな本を読んでました。かなりわかりやすく解説してくれてるので、私が日本古典文学に足を踏み入れるステップのひとつとなってくれたことは、確かです。
ですが、最近その内容に、少々疑問が…。
というのも、「まんがで~」系で紹介される「恋の和歌」は、それはもう情熱的に歌人本人が体験したこととして、描かれています。
でも、それってホントなの?
すべての恋歌に、その認識を適応していいの?
…というのも、和歌には、「題詠」によって詠まれた歌が存在するからです。
「題詠」というのは、わかりやすくいうと、「~なお題」に合わせて歌を詠むということ。創作をする人には馴染みぶかい、「あらかじめ指定された「お題」に則って創作する」というやつです。
和歌にもこの「お題」が存在します。特に歌会や歌合では、さまざまな題が設定されていたことが確認できます。例えば、長治2(1105)年以降成立の『堀河百首』という歌集には、「立春」・「桜」・「五月雨」・「蛍」・「七夕」・「月」・「氷」・「網代」など季節・自然系のお題や、「初恋」・「不被知人恋」・「初逢恋」・「旅恋」などの、恋のお題もあります。
ちなみに「不被知人恋」は、「人に知られざる恋」という意味だったと思います。
で、この「題」というものも踏まえて、和歌を見ますと、「恋歌は、本当に恋の和歌なの?」という問題に、ひとつの着眼点があることに気づきます。
例えば、『古今和歌集』巻第14、恋歌四の715番歌。紀友則さんの和歌。
蝉の声 聞けば悲しな 夏衣 薄くや人の ならむと思へば
(蝉の声を聞くと、悲しくって悲しくって。夏の薄い衣のように、あの人の想いも、薄っぺらくなってくんだろうなぁって思ったら)
恋の想いのはかなさを詠っていますね。
ところが、この歌に付された「題」には、こう書かれています。
「寛平の御時の后宮の歌合の歌」
!!
…というわけで、さかのぼって調べてみます。
「寛平の御時の后宮の歌合」というのは、まんま「寛平御時后宮歌合」のこと。寛平4(892)年頃、宇多天皇の母后である、班子女王の居院で開かれたそうです。母后の、還暦祝いパーティーの意図もあったとか、なんとか(参考文献:『国歌大観』)。
で、そこに提出された「蝉の声~」の和歌を調べてみます。
題は……「夏歌」!
!?
つまり「蝉の声~」という和歌の実情は、紀友則さんが「夏」を題材にして、詠んだことになります。純粋な恋の和歌、というわけじゃなかったんだよ、ワトソンくん!
なので、和歌の内容というのは、歌人が実際にその状況にあったとは、限らないのです。この友則さんのように、歌合の「題」に合わせて、創作しただけの歌もあるからです。だから、本来は恋をしない(はずの)僧侶や内親王の恋歌も、存在するわけです。「題」に合わせて詠んだだけですだから。
人間は、知識と多少のイメージ力があれば、「創作」することのできる生き物です。
恋愛をしない人間にも恋歌が詠めることは、推理作家が殺人をせずに殺人事件を書けること、漫画家が海に出ずに海賊物を描けることに共通すると思います。
歌人たちも和歌の勉強会を開いていた、という研究もあります。和歌は、奇抜な独創性より、共通認識をいかに表現するが優先されるので、中世になるとネタが尽きて歌人も大変だったらしいです。膨大な数の題に対応するため、勉強会をしてたと。
歌人A:「も~、このお題でネタねーよ!」
歌人B:「じゃ、いっそ万葉集を踏まえてみんべ? ●●なんて詠み方どうよ」
歌人A:「お前天才!」
歌人C:「それ、採用。このお題に使うことでFA?」
みたいなやりとりがあったに違いない。
そんなわけで、恋の和歌の実情なんて、そ~ロマンティックでもなかったりするのかもよ~。というお話でした。皆さんも、和歌を「読む」ときは、そのお題にも注目してみてください。
ですが、最近その内容に、少々疑問が…。
というのも、「まんがで~」系で紹介される「恋の和歌」は、それはもう情熱的に歌人本人が体験したこととして、描かれています。
でも、それってホントなの?
すべての恋歌に、その認識を適応していいの?
…というのも、和歌には、「題詠」によって詠まれた歌が存在するからです。
「題詠」というのは、わかりやすくいうと、「~なお題」に合わせて歌を詠むということ。創作をする人には馴染みぶかい、「あらかじめ指定された「お題」に則って創作する」というやつです。
和歌にもこの「お題」が存在します。特に歌会や歌合では、さまざまな題が設定されていたことが確認できます。例えば、長治2(1105)年以降成立の『堀河百首』という歌集には、「立春」・「桜」・「五月雨」・「蛍」・「七夕」・「月」・「氷」・「網代」など季節・自然系のお題や、「初恋」・「不被知人恋」・「初逢恋」・「旅恋」などの、恋のお題もあります。
ちなみに「不被知人恋」は、「人に知られざる恋」という意味だったと思います。
で、この「題」というものも踏まえて、和歌を見ますと、「恋歌は、本当に恋の和歌なの?」という問題に、ひとつの着眼点があることに気づきます。
例えば、『古今和歌集』巻第14、恋歌四の715番歌。紀友則さんの和歌。
蝉の声 聞けば悲しな 夏衣 薄くや人の ならむと思へば
(蝉の声を聞くと、悲しくって悲しくって。夏の薄い衣のように、あの人の想いも、薄っぺらくなってくんだろうなぁって思ったら)
恋の想いのはかなさを詠っていますね。
ところが、この歌に付された「題」には、こう書かれています。
「寛平の御時の后宮の歌合の歌」
!!
…というわけで、さかのぼって調べてみます。
「寛平の御時の后宮の歌合」というのは、まんま「寛平御時后宮歌合」のこと。寛平4(892)年頃、宇多天皇の母后である、班子女王の居院で開かれたそうです。母后の、還暦祝いパーティーの意図もあったとか、なんとか(参考文献:『国歌大観』)。
で、そこに提出された「蝉の声~」の和歌を調べてみます。
題は……「夏歌」!
!?
つまり「蝉の声~」という和歌の実情は、紀友則さんが「夏」を題材にして、詠んだことになります。純粋な恋の和歌、というわけじゃなかったんだよ、ワトソンくん!
なので、和歌の内容というのは、歌人が実際にその状況にあったとは、限らないのです。この友則さんのように、歌合の「題」に合わせて、創作しただけの歌もあるからです。だから、本来は恋をしない(はずの)僧侶や内親王の恋歌も、存在するわけです。「題」に合わせて詠んだだけですだから。
人間は、知識と多少のイメージ力があれば、「創作」することのできる生き物です。
恋愛をしない人間にも恋歌が詠めることは、推理作家が殺人をせずに殺人事件を書けること、漫画家が海に出ずに海賊物を描けることに共通すると思います。
歌人たちも和歌の勉強会を開いていた、という研究もあります。和歌は、奇抜な独創性より、共通認識をいかに表現するが優先されるので、中世になるとネタが尽きて歌人も大変だったらしいです。膨大な数の題に対応するため、勉強会をしてたと。
歌人A:「も~、このお題でネタねーよ!」
歌人B:「じゃ、いっそ万葉集を踏まえてみんべ? ●●なんて詠み方どうよ」
歌人A:「お前天才!」
歌人C:「それ、採用。このお題に使うことでFA?」
みたいなやりとりがあったに違いない。
そんなわけで、恋の和歌の実情なんて、そ~ロマンティックでもなかったりするのかもよ~。というお話でした。皆さんも、和歌を「読む」ときは、そのお題にも注目してみてください。
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サイト「Nanayo-Duki」と連動するブログです。
オリジナルのイラスト・小説・ハンドメイド作品などの創作活動を展開。おもにオンライン上で発表しています。モットーは「おもしろければ何でもいい」。あと古典が好き。最愛は日本中世(平安末~室町)期。
ちまちまと投稿もやってます。
ライトノベルレーベル中心。お見かけの際はどうぞごひいきに。
拍手・コメント歓迎。
創作物への感想・ご意見、またご依頼等は、こちらのメールフォームをお使いください。
(サイトのメールフォームをお使いいただいても結構です)
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